本屋の文庫コーナーで、なんとなく手に取った「革命前夜/須賀しのぶ」を読みました。
近頃よく見かける手書き文字風デザインの帯に、書店の文庫担当さんによる絶賛のお言葉がびっしりで、釣られてみることにしました。
以下、帯を再現。
文庫担当のオススメ
文庫担当が今、一番読んでほしい本
不意に出会ってしまった傑作に、しばらく他の本が手につかなくなるくらいの放心状態となりました。歴史x音楽x青春
絶妙すぎるバランスで読者を物語の世界へ引き込む圧倒的エンターテインメント!!
おもしろくないわけがない!!!
この国の人間関係は二つしかない。密告するかしないか――。
MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店 佐々木梓
あらすじ
「今日、昭和が終わったのだそうだ。」の一文で始まる本書。
数十年前の回想シーンかと思いきやそうではなく、昭和天皇崩御の1989年1月7日から、ベルリンの壁が崩壊する1989年11月9日までの約一年がこの小説の舞台設定です。
主人公の眞山柊史(シュウジ)は、この年に東ドイツ、ドレスデンの音楽大学へ留学。
音楽のレベルも高く、様々な濃いキャラクターの留学生たちとの交流により、ピアノの腕前はもちろん人間としても成長をしていく青春物語となっています。
しかしながら舞台は、東側の共産主義体制が限界に近づきつつある東ドイツ。
市民運動も徐々に活発になってきているこの国で、眞山たち留学生も音楽だけやっていればいいという訳にはいかなくなってきます。
音楽大学の学友たちのなかにも、体制に近い人間、市民運動にかかわるもの、西側への亡命をひそかに望むものと、立場の違いによる思惑がうごめき、眞山たちも徐々に翻弄されていきます――
感想
青春小説としてもとてもよくできた作品でありながら、ベルリンの壁崩壊が間近にせまった旧東ドイツが舞台ということで、社会派ミステリーの要素も色濃い重厚なエンターテインメント作品となっていました。
ハードなスパイ小説みたいな内容だとちょっと読みにくいかもしれないと危惧していたのですが、眞山の四苦八苦する留学生活の描写から、徐々に政治的な要素を盛り込んでいく展開が巧みで、それぞれの登場人物のキャラクターが把握できたころに、物語がダイナミックに動き始める展開に強く引き込まれます。
音楽の勉強のために東ドイツに留学している眞山が主人公ですから、クラッシック音楽の描写がたくさん登場します。
正直、作曲家の名前も、曲についても小学生程度にしか分からないので、文章を読んだだけでピンとくる楽曲はまったくありませんでしたが、時折りYouTubeなどで検索しながら、それをBGMにしての読書体験もなかなか乙なものでした。
実在の音楽、アーティストが登場する小説ならではの楽しみかたです。
東ドイツというお国柄、留学生仲間でさえ北朝鮮やベトナムといった、東側に近い国からの出身者が多く、日本からの留学生である眞山がどのくらいこの環境に溶け込んでいけるのかという点も読者を心配させます。
もちろん最初は孤立することも多いのですが、少しずつ心許せる友人も増え、それどころか後に重要な登場人物となる、オルガン奏者との恋の行方も見逃せないポイントになっていきます。
しかし、東ドイツの人間関係は、密告するものと密告されるもの、と言われるほど。
この、少しずつ築き上げた人間関係が後々の物語をドラマチックに彩ります。
仲の良かった友人が、実は西側へ亡命する足掛かりのためだけに近づいているのかもしれない。
あるいは、そんな人間を監視する密告者かもしれない。
誰を信じればよいのかも分からないなか、一人の女性のために市民運動に深く関わっていく眞山。
ベルリンの壁崩崩壊というクライマックスに向けて、時に冒険譚のようなアクションシーンを挟みながらストーリーが疾走する本書。大満足の一冊でした。
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