とにかくタイトルにインパクトがあるし、本と雑談ラジオ(第31回)でも紹介されているので前々から気になっていた「夫のちんぽが入らない」の文庫を近所の本屋で見つけたので読んでみました。
あらすじ、内容について(ネタバレあり)
普通の夫婦なんていない。他人から見ればきっと皆どこかおかしい。 だからこそオリジナルの夫婦の形、愛の形を作り楽しむべきだ。この夫婦には 素晴らしい絆があり、私は大ファンになりました!
小池栄子(女優)
大学進学と同時に親元を離れ入居したトイレ、風呂共同のボロアパート「双葉荘」。
入居初日の夜、なんの挨拶もなく、当たり前のように部屋に入り込んできた痩せた男のひと。同じアパートの住人で、大学の先輩だ。
カラーボックスの組み立てを手伝い、使わなくなった教科書をくれ、テレビをしばらく見て帰っていったその男のひとは、後に主人公の夫となる。
二人の付き合いは、出会ってすぐに始まる。と同時に、一生付きまとうことになる問題とも直面することになる。
本書のタイトルでもある「夫のちんぽが入らない」問題だ。
しかし、この問題自体は二人の関係に決定的な亀裂を生むわけではない(大なり小なりの問題は、もちろん起こる)。
ちんぽ問題を抱えながらも、大学を卒業し、ともに教師となり、結婚し、成長して挫折し、そうして歳を重ねていく二人の物語。
感想、所感
私小説風のフィクションということのようですが、読み心地は小説というよりはエッセイに近く、もっというとブログの文章に近いかも。
タイトルもそうですが、数ページに一度は読者を笑わせるようなオモシロテキストを入れてくるなど、サービス精神にあふれています。
主人公と旦那さんの人生を、大学時代から追うように描かれていて、それなりに山あり谷ありではありますが、ストーリー的な一番の山場というか「つかみ」は、ポロアパートで初日に出会った人と結婚することになる、という設定のような気がします。
とまどう主人公に対してズケズケ踏み込んでくる将来の旦那、という構図はおもしろくて描写もほのぼの且つイキイキとしていて良かったです。
二人の人生ステージが進むにつれてドタバタ劇、あるいはシリアスな問題もいろいろと起きますが、文章自体はあくまでも軽やか、サクサクとページが進みました。
偏見かもしれませんが、ちょっと疑問に感じたのが、この主人公は教師になりたがるタイプなのかというところ。田舎に暮らしていたときから人とのコミュニケーションも上手ではなく、コンプレックスを抱え、学校にもいい思い出なんか全然ありません。
学校なんて場所とは二度と関わりたくない! というのなら分かるのですが、とくに説明なく教師という職業に憧れていたことになっているところが引っ掛かりました。
友達はおらずとも勉強はよくできて、先生からは褒めてもらっていたからかな……などと想像したりはしましたが。
実際、教師になってしまえば自分にも社会人モードの「スイッチ」があることを知り、それなりにこなすどころか、もっと成長できる環境に身を置きたい、とさえ思い始めます。
この、いったんは順調に歩みはじめるところがまた、後の崩れかたと対比して、なんともリアルでした。
ステップアップなど目指さなくても! 今の環境でいいじゃん! 他人事ながらそんなハラハラとした気持ちにさせられるんですが、でも、うまく物事が進んでいるときって案外アクセル踏みがちですよね。
この、教師として壁にぶち当たるエピソードは、あとがきにもありますがかなり実体験に沿った描写のようです。
本と雑談ラジオでは、この本のどこからどこまでが本当なの? ということを話題にしていました。
恥を晒すつもりで書いたと作者は言っていますが、出会い系でのやりたい放題や夫の風俗通いなど、さすがにある程度は盛っているような気はします。
そんな視点であとがきを読むと、その辺をうまくボカしながら「本当のエピソードもそれなりにあるよ」みたいなことを言ってるな~と深読みをしてしまいます。もっとも別にすべてが本当だとはどこにも書かれてないのですが。
推測まじりの解釈ですが、どんな理由であれ二人に子供がいないということは事実で、作者は、そのことに対するプレッシャーや周囲から投げかけられる言葉、振る舞いにほとほとうんざりしていたのだと思います。
そんな人たちにいつか大声で言い返してやろうと作者が生みだした言い訳。
「夫のちんぽが入らない」からだよ!
それが本当かどうかは関係なく、こう言い返したとき相手はどんな顔をするだろうと反応を想像するだけで面白い。こんな間の抜けた言い訳をする自分も面白い。
デリカシーのない相手と接するとき、この言葉を頭の中で相手に投げつけ、面白がることでストレス軽減をしていたのではないでしょうか。
もちろん実際に言えるわけはありません。
その代わり、この面白い言い訳を種とし、虚実を交えながら発想を膨らませたテキストが本作へと繋がったのではないでしょうか。
そんな解釈にたどりついたのは、妻と暮らし始めて二十年になろうかという僕自身に子供がおらず、日々ささやかに生活しているからかもしれません。
はい今、「どうして子供いないの?」「作ろうと思わなかったの?」「まだ可能性はあるのでは?」と思ったそこのあなた。
ぜひ本書を手に取って、作者の戯れ言を思い切り浴びていただきたいと思います。
内容とはまったく関係ありませんが、文庫版の解説に「言わずもなが」という言葉がでてきました。
これをみたとき、あ、今の今まで「言わずもがな」だと思い込んでた! 人前で使う前に気づけてよかった! あぶねー! と思ったのですが、念のためネットで検索してみると「言わずもがな」のほうで合ってそうでしたので、同じように思った方がいましたらお気を付けください。
コメント