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初恋芸人/中沢健 恋愛経験ゼロの売れない芸人の甘くて痛い初恋物語

読書感想
初恋芸人/中沢健 感想

だいぶ前の本と雑談ラジオで紹介されていた、中沢健さんの初恋芸人を読みました。

中学のときにはいじめられっ子、いまは売れない芸人をやっていて、恋愛経験はゼロ。そんな佐藤が主人公。

ある日の先輩芸人が主催したライブの打ち上げに、ライブの観客の女の子が参加する。それが市川さん。市川さんは、面白くないネタにも笑い、女の子との会話がたどたどしい佐藤にも優しい。

そんな市川さんに佐藤が恋に落ちるのは時間の問題て、要するにこの初恋芸人は、市川さんを巡る佐藤の初恋の物語だ。

キモいオタクが可愛らしい彼女と付き合うという展開は、最近ではひとつのパターンでもあり特に目新しさはないものの、お約束なりの面白さでもって、読みすすめることはそれなりに楽しい。

また、佐藤の不器用さ、女性経験のなさで、なかなか市川さんとお近づきになれない感じはもどかしいながらもリアルで、芸人かどうかよく分からないけれどバラエティ番組などに出たりもしている作者の中沢健が自身を投影している部分もきっと大きいのだろう。
(あとがきで、執筆時点では本当に恋愛経験がなかったことを告白している。)

しかしながら、佐藤と市川さんは結局結ばれることはない。
それどころか、別の登場人物とくっついてしまうのだ(相手が誰であるかは一応伏せておきます)。

佐藤目線で語られる物語では、最後まで佐藤が理解しえない、可愛らしい女性でありつつも不可解な生き物として描かれる市川さん。
この初恋芸人の見どころは、その市川さん目線で最初からの顛末が語られる終章だ。

じつは佐藤と同じようにいじめられた過去があり、ずっとひとりぼっちだった市川さんがどうしてお笑いライブにハマり、佐藤たちと仲良くなっていったのか、その告白がとても痛々しい。

この本は、恋愛をこじらせたまま大人になってしまった似た者同士のふたりの、もどかしくてどこか愛おしい恋愛の物語だ。

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