大反響を呼んだ「交通誘導員ヨレヨレ日記」シリーズ。第1弾、第2弾は飛ばし、第3弾メーター検針員テゲテゲ日記を読みました。
本と雑談ラジオでも取り上げられていて、読んでみたかった一冊でした。
あらすじ
1件40円、
本日250件、
10年勤めて
クビになりました。
本の表紙に書かれているキャッチコピーのとおり、50歳からの10年間、地元鹿児島にて巨大企業Q電力の下請け検針サービス会社にメーター検針員として勤務した著者・川島徹氏による、メーター検針員の仕事と格闘する日々を描いたエッセイです。
元々、東京で外資系企業に勤めるサラリーマンでしたが、小説家の夢を諦めきれず40代半ばで退職。お金が尽きて郷里の鹿児島に戻り、見つけたのがこの仕事。
本書の刊行によって長年の夢を叶えたときにはすでに70歳。苦労人というか、夢追い人というか……
感想
この本の特徴的なところは、まずページの構成で、全てのページの下の部分に脚注用のスペースが確保されていて、本文のところどころに打たれた「※印」に関する解説が、そのエリアに書かれているスタイルになっています。
例えば、まえがきの一番最初の脚注は、
計器番号などの小さな数字
タテ5ミリほどの数字。
電気メーターが目の前にあれば読み取るのは簡単である。
のちほど述べるが、電気メーターはあらゆるところに設置してあり、それが必ずしも見やすいところとは限らない。
と、こんな感じ。
単なる説明ではなく、著者の愚痴や嫌味が盛り込まれていて楽しいです。
最初は、タイトルも表しているようにメーター検針員という仕事を解説しつつ仕事を通じて経験したドタバタをおもしろおかしく描いている本なのかな、というつもりで読みすすめました。
もちろんそういう要素もたっぷりあってそれなりに面白いのだけど、ただそればかりだと徐々に飽きてくるというか、正直、そこまで流暢とはいえない文章と特殊なカテゴリーという組み合わせがなんだかちょっと面白いブログを読んでいる、程度の感じに思えてきて。
少しきついかなと感じ始めていたところ、徐々に内容が自分語りのほうへシフトしていきます。
50歳を過ぎてメーター検針員という仕事をしている著者。職業を色眼鏡で見る訳ではありませんが、思った通りに歩んできた人生というわけではないのでしょう。
なかなか上手くいかないけれどいつか作家になるんだ。そう夢を持って生きてきた過去を淡々と綴る筆致が、まるで居酒屋でたまたま隣り合わせた人がぼそぼそと語る話を聞いているようで、徐々に心地よくなるのです。
真っすぐと言えば聞こえはいいが、生き方も不器用。
言わなければ穏便にすむことも、検針員たちが参加する会議で正論を振りかざし、契約している会社の偉いさんから目を付けられてしまいます。
そんな著者だから、本筋とは関係なくても、下請け検針サービス会社の社長が代々Q電力から天下ってくることや、理不尽な雇用契約のことなども書いてしまう。ときおり飛び出す暴露的な話も本書の醍醐味です。
鹿児島と言う地方都市で、小説家の夢を見ながらメーター検針員で食いつなぐ著者の、これはもうほとんど私小説といってもいい一冊です。
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