オススメのポップとともに、書店で文庫が平積みされていました。
週刊文春ミステリーベスト10 2016年第1位。
第7回山田風太郎賞受賞作。
2017年の第14回本屋大賞3位。
これらに加え、2020年には小栗旬、星野源をメインのキャストにした映画が公開されることが決定しています。
賞や宣伝ばかりに煽られるのもどうかと思いつつ、評価が高いエンタメ系の小説は基本的に外れが少ないもの。初めての塩田武士作品、楽しみに手に取りました。
あらすじと感想
メインの登場人物は、京都でテーラーを営む曽根俊也と、大日新聞記者の阿久津英士。
2人の視点が入れ替わりながら物語は進行します。
自宅で探しものをしている最中に古いカセットテープを見つけた曽根は、再生した音声を聞いて衝撃を受けます。
「きょうとへむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」
幼い頃の自分の声であることは間違いありません。
毒入りの菓子がばら撒かれ、複数の菓子メーカーが恐喝されたギン萬事件は、曽根が幼少のころに起きた有名な未解決事件。この事件で、とある食品会社の恐喝に使われた音声と一致する内容。
そんな馬鹿なことがあるはずないと思いながらも、調べれば調べるほど、自分の声が使われたことを曽根は確信します。
どうして自分の声が事件に使われたのか。
どうしてテーブが自宅にあったのか。
カセットテープと一緒に保管されていた父のノートを手がかりに、知り合いや親戚のつてを頼りに調査をはじめます。
小説のなかのギン萬事件は、【ギンガ】、【萬堂製菓】という2社の食品会社の社名から付けられた事件という設定になっています。
ある年齢以上の人なら誰でも知っているグリコ・森永事件をモチーフとしていることは一目瞭然です。
未解決事件であるグリコ・森永事件をどう深堀りし、物語にどのような決着をつけるのか。
事件の犯人側に関わるポジションに曽根を配置するという設定も意欲的です。
一方の阿久津は、社の企画である未解決事件の特集記事でギン萬事件を任されます。
途方に暮れている阿久津でしたが、丁寧な資料の掘り起こしと、事件の周辺をコツコツと取材して歩くことで、今だからこそ見えてくる事件の核心に少しずつ近づいていきます。
とっくに時効となっている未解決事件をそれぞれの理由で追いかける曽根と阿久津が、調査を通じて徐々にお互いの気配を感じ始める流れは必然でありながらスリリング。やがて訪れるであろう二人の邂逅はどのようなものになるのか、期待が止まりません。
昭和の大未解決事件の謎 。
事件の内側から調査をする曽根と、周辺から少しずつ掘り崩していく阿久津の二人が協力したとき初めてそれは突破できるかもしれない、そう思わせるからです。
社名、人名などの固有名詞以外は実際の事件にもとづいた設定となっており、身代金の受け渡しシーンなど迫真の描写。ルポのようにカチッとしまった文体は、創作であることを忘れさせるほどの圧倒的リアリティ。
もちろんエンターテインメント作品として、随所に壮大かつ緻密な仕掛けが用意されており、終盤に向けてはページをめくる手が止まらなくなることをお約束します。
コメント
[…] 映画「罪の声」が2020年10月30日より劇場公開されています。原作小説がなかなか面白い一冊でしたので、映画も見てきました。 […]