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生き方の問題/乗代雄介 かくも違う、思い寄せ合う二人の生き方

読書感想
生き方の問題/乗代雄介 感想

旅する練習ファンになった乗代雄介さんの単行本「最高の任務」に収録されている「生き方の問題」を読みました。デビュー作「十七八より」が難しくて少々戸惑ったのだけど、この「生き方の問題」は文句なしに素晴らしかったです。

あらすじ、内容について

僕は、2歳年上の従姉に長い手紙を書き送る。幼い頃からの思慕と、一年前の久しぶりの再会について……。

Amazon 商品の説明より

主人公である僕・祥一が、幼いころから好意を寄せていた従姉・貴子に宛てたとても長い手紙が、そのまま作品になっている形です。

2018年7月7日(土)に到着するように指定されたこの手紙には、おばあちゃん家がある足利での幼少の頃の思い出と、1年前、貴子に呼び出されて足利を訪ねたときのできごとについての記述がメインに書かれています。

1年前、貴子と祥一になにがあったのか……

そして、あの出来事から1年たち、仕事を辞め、車の免許をとり、貴子への思いを込めて書き上げたこの手紙の意味とは……

「生き方の問題」の感想、所感 

あらすじの通り、従妹の貴子への手紙という体裁をとっています。

「十七八より」を読んだあとだけに、すっと沁みるように入ってくる文章が心地よく、そして、貴子に思いを寄せる祥一の、もはや執拗といっていい回想は、痛々しくも切ない。ちょっと震えるほどに面白さを満喫しました。

そして、思いもよらぬフルスロットルの官能描写。そっち方面に乗代さんの緻密な描写力を発揮すると、ここまでエロいのかと。単に身体的なことだけではなく、若さに起因する切迫感が胸にせまりますし、最終的な貴子と祥一の対比がまた沁みるのです…… 


祥一の書いた手紙の本題は、終盤近くになって明かされます。

その、不穏に思いつめた行動の原理はどうにも自己中心的で、ともすると、素直に思いを伝えるだけでよいじゃないか、と言ってやりたくなるのですが、いとこ同士という関係性や生来の祥一の性格に加え、なにより1年前のあの出来事を考えると、やはり貴子のほうにも原因はあると言えばあるように思えるし……

どんなに二人を支える祖母(と読者)が祈ったとしても、その通りの結末とならないのは、それこそ生き方の問題ということなのでしょうか。(明確に結末が明かされているわけではありませんが……)


それにしても、この小説(手紙)のラストには、なんともいいがたい力強さと潔さがあります。旅する練習もそうでしたが、小説を締めくくるキレの良さは乗代作品の特徴といえるかも。

手紙のなかでも、トカゲのシッポを切るように終わることは宣言されているのですが、そんなことは実際にはないでしょうけれど、なにかしっぽの切れるパツン!という音が頭の中で響いたような、そんな読み心地は初めての体験でした。


足利というと、本書にも登場しますが森高千里の渡良瀬橋が思い浮かびます。(1993年のリリース、もう30年前……)

個人の方の動画ですが、曲に合わせて足利の風景を紹介する内容に編集されているのでご紹介します。


以下、あまり本筋とは関係ないネタバレ(推測)。

本書48ページに「ありもしない思い出を一つ(略)手紙へ埋め込んで」とあります。

つまり、手紙に書かれた貴子と祥一のエピソードに嘘の思い出が混ざっているというのですが、そんなことは言われなければ読者には分からないわけで、これはもう乗代さん出題のナゾナゾです。

それはたぶんスマホゲームのエピソードじゃないかと踏んでいるのですが、本書の中には答えはありません。

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