2019年上半期、第161回芥川賞を受賞した今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」を読みました。
デビュー作のこちらあみ子から、あひる、星の子、と、次々と面白い作品を生み出してきた今村さん。あひるでも芥川賞候補になりましたが、本作「むらさきのスカートの女」でみごと受賞。
これまでとまた少し毛色が違う物語ながら、面白さは文句なし。
ただ一つ残念なところがあったとすれば、本作を読み始める前に芥川賞を受賞したことで、書評的な文章やラジオを先に聞いてしまい、作品のあらすじや展開が事前に少し耳に入ってしまっていたこと。
もちろんそれで面白さの本質が損なわれることはないのですが、この、むらさきのスカートの女に関しては、事前の知識ゼロで読み始めるのが一番楽しい読書となることは間違いありません。
おもしろさは100%保証!
今村ワールドを余すことなく楽しみたい方は、これから私が書く感想などは一切見ずに本を読み始めましょう。
主人公のわたしは、近所に住んでいる「むらさきのスカートの女」のことが気になっています。
むらさきのスカートの女は、いつも同じむらさきのスカートをはいていて、頬にはシミが浮き出て、肩までのびた髪はツヤがなくパサパサ。
公園には「むらさきのスカートの女専用シート」と名づけられたベンチがあり、近所では、大人のみならず子供にもその存在をしられています。
子供たちの間では、ジャンケンに負けた者が、むらさきのスカートの女にタッチするという遊びが行われるほど。
要するに、その町でちょっと浮いたような存在なのだけど、わたしはそんなむらさきのスカートの女が気になって仕方がなく、友達になりたいとさえ思っています。
どうしても友達になりたいわたしは、むらさきのスカートの女が、自分の職場で働くことになるよう策略し、みごと成功。
話しかけて、お互い自己紹介しあうタイミングを見計らいます。
ところが、そんなタイミングが掴めないでいるあいだに、むらさきのスカートの女はどんどん職場に馴染んでいき、人気ものにさえなっていってしまいます。
というように、四六時中むらさきのスカートの女のことばかりを気にして、チェックをし続けている「わたし」。
どうしてそんなに気になっているかはあまり説明されないまま、とにかく執拗なほどに観察を続けるので、読んでいるほうの興味は、むらさきのスカートの女から、徐々にわたしというのは、いったい何者なんだという気持ちに変わってきます。
むらさきのスカートの女に対しての異常な執着、長年の観察による知識。
そして、まわりのことなど一切気にせずに自身の興味に対して猛進していく危うさ。
初めはちょっと風変わりなむらさきのスカートの女の話だと思いながら読んでいくうちに、実はわたしのほうこそが変な(どころか、かなりヤバイ)ヤツなんだと、読者の認識をもてあそぶのです!
こういういわゆる一般常識からちょっぴりズレた人物を書かせたら天下一品の今村夏子さん。
むらさきのスカートの女の職場での立ち位置がどう変わっていくか、それに対してわたしはどんな行動をとるのか。
物語のクライマックスに向け、わたしが必死になればなるほど、どこか馬鹿らしくてコミカル。
これまでの、こちらあみ子や星の子にあったような、そのキャラクター、環境ゆえの切なさみたいなものは今作ではほとんど排除されていて、これは評価が分かれるところでしょうけれど、よりキャラクターを際立たせることを重視した、という部分においては間違いなく成功していると思います。
むらさきのスカートの女、そして、観察者であるわたし。
今村作品ならではの愛すべきキャラクターたちを心行くまで堪能できる本作「むらさきのスカートの女」。
絶賛おすすめです!
デビュー作。あみ子という愛おしいキャラクター。
星の子。楽しくも感動の一冊。
コメント
[…] 2019年に第161回芥川賞を受賞した今村夏子さんの最新作「木になった亜沙」をゲット。3編の中・短編からなる一冊となっていました。 […]