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タダイマトビラ/村田沙耶香 家族なんてカゾクヨナニーみたいなもの

読書感想
タダイマトビラ/村田沙耶香 感想

2012年3月に発売された、村田沙耶香さんの「タダイマトビラ」。平成二十八年発行の新潮文庫で読みました。

あらすじ、内容について

Amazonの紹介より

母性に倦んだ母親のもとで育った少女・恵奈は、「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消していた。高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活は恵奈にはおぞましい。人が帰る所は本当に家族なのだろうか?「おかえり」の懐かしい声のするドアを求め、人間の想像力の向こう側まで疾走する自分探しの物語。

Amazon 商品の説明

「タダイマトビラ」の感想、所感

カゾクヨナニー。

家族同士の関係が希薄な家庭で育っている恵奈が、家族欲を満たすために行う行為のことなのですが、まずもってそのヘンテコリンなネーミングセンスが抜群です。

恵奈にとってのカゾクヨナニーとは、カーテンの「ニナオ」に包まれながら、「ニナオ」と疑似的な家族関係を築くという妄想を楽しむ行為。

こうひとことで書くと、少女がぬいぐるみで遊ぶような行為とそれほど大差がないように思えるのだけど、村田さんならではの描写でもって、エロチックで異様な雰囲気を醸しつつ、なにかとても特別な行為であるかのように描かれます。


カゾクヨナニーは、ニナオに包まれるという行為そのものというより、もちろんカゾクヨナニーによって家族欲が満たされるという点が重要なわけで、妄想であるがゆえに、完璧な形で満たされることができます。

カゾクヨナニーをしながら恵奈は、いつか手に入れるはずの本当の家族を夢見ています。でもそれは、性欲の例を出すまでもなく、こじらせの前兆であることを予感させます。


少し成長し、高校生となり、恋人に頼りないプロポーズをされる恵奈。

また一歩、本当の家族に近づいたと喜んでいた恵奈でしたが、恋人の幸せそうな顔を見ながら、ふいに思うのです。

この人は、わたしでカゾクヨナニーをしているんじゃないか、と。

セックスというのは まさか オナニーを手伝いあっているのか まさか(佐々木あらら)

この短歌ように、気づいてしまうのですが、でも、じゃあそれって本当の家族とは違うものでしょうか。本当の愛と違うものでしょうか。

ある程度の人生経験を経た人ならば同じ感覚かと思いますが、無自覚ヨナニー的なものが実は体面を保ったり、物事を円滑に運んだりしてることってさまざまな場面であるじゃないですか。 

恋人のカゾクヨナニー疑惑程度のことでショックを受けていたら、この先普通に人生を歩むことなどできるわけもありません。

そして、その通りの道をたどるように、恵奈はどんどん壊れていってしまうのですが、その壊れ方たるや、村田ワールドアクセル全開。


親元から離れ数十年がたち、子供もおらず、それどころか親もなくなっている自分にとって、そこまで家族に執着する恵奈にあまり共感できずに読んでいたところ、話はどんどん内向きになったあげくビッグバンのように破裂する展開はむしろ痛快でもありました。

恵奈が最後どんなニンゲンとなる結末なのか、ぜひ本書を読んでみてはいかがでしょうか。

最後に、本書が刊行されたころの村田さんのインタビューをリンクしておきます。

第125回:村田沙耶香さんその5「新作『タダイマトビラ』について」 - 作家の読書道|WEB本の雑誌
――さて、新刊の『タダイマトビラ』は、子供に無関心な母親と暮らす少女が理想の家族...

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