小田嶋 隆さんの語り下ろしエッセイ、上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白を読みました。
著者の小田嶋 隆さんは、30歳ごろからの約10年間、深刻なアルコール依存の状態でした。
そこからどのように抜け出したか、そしてそもそもアルコール依存とはどういう状態なのか。
そういったことを、体験者ならではの視点で語っています。
決して説教臭くなく、そこまで酒を飲まない人にとっても、ハッとすることの多い一冊だと思います。
著者自身、本来はそれほどたくんのお酒を飲むタイプの人ではありませんでした。
週に一日、二日は飲まない日もあったりするくらいで、よもや自分がアル中だとは思っていません。
ところが、アル中というのは否認の病とも言われ、誰しも自分からそうとは認めないらしく。
そんなことを言ったら、自分のみならず、全ての酒を飲む人がアル中の可能性を秘めてることになってしまいますが、この本を読むとあながちそれも間違っていないのではないかと感じてくるのです。
この本を読みながら、アイツは酒の飲み方はヤバイかも、あの人も酒量が多すぎるな、と頭に浮かんだりするのですが、そこに自分自身は含まれていないわけです(笑)。
自分の自覚では、飲んでる間ずっと飲み足りない気分でいて、「もう少しかな」「もう少しかな」って足していくと、あるときダーッとあふれてしまう。
最近は以前ほど酒を飲まなくなりましたが、こういう酒飲みの感覚描写は、ちょっと分かるなぁと膝を打つと同時に、自分も小田嶋さんと一緒なのでは……と背中が寒くなります。
アルコール依存から抜け出そうとする段階で、小田嶋さんは映画や音楽、野球を観るのががつまらなくなったと言います。
それらは全て、酒とセットで、あたかも酒の肴のように楽しんでいたものだったからです。
その感覚もちょっと分かるところがあります。
シラフでカラオケには行ったことはありませんし、酒の無い焼鳥や焼肉なんかちっとも楽しくなさそうです。
このように、小田嶋さんほど大量に飲酒するようなことはなかったとしても、アルコールには少量なら少量なりの依存性があることを突きつけられます。
もちろん社会生活に支障のない範囲であればなんら問題のないことです。
ところが、その依存性を満たすことで生じる快楽に、酒量を増やす危険性がはらんでいます。
お酒を飲む人には、そのことが薄々感じられるのが恐ろしいのです。
お酒やタバコはもちろん、食べること、スマホなど、何かに依存することとはどういうことなのか。
そういったことが、小田嶋さんの語りを通じて垣間見えてきます。
どこかとぼけたような水色の装丁もかわいらしく、重たいテーマながら、軽妙な文章でとても読みやすいです。
ぜひ皆さんに手にとってみてほしい、おすすめの一冊です。
コメント