旅する練習ですっかりファンになった乗代雄介さん。第58回群像新人文学賞を受賞(2015年)したデビュー作「十七八より」も読んでみることに。
あらすじ、内容について
ある夏、ある少女の「1か月」。
Amazon 商品の説明より
いつかどこかに存在したあらゆる一瞬の堆積が、鮮やかに立ち上がる。
第58回群像新人文学賞受賞作。期待の書き手のデビュー作がついに文庫化。
「十七八より」の感想、所感
正直、なかなか苦戦した読書でした。あの面白かった旅する練習を読んでいただけに。
もし、先にこのデビュー作を読んでいたとしたら、旅する練習をはじめ、他の乗代さんの本を手に取っていただろうか……
ストーリー性がうすかったり、展開しない物語が苦手ということはないのですが、とにかく、読んでいて意味が掴めないところがちょいちょい。読解力の問題と言われればそれまでなのですが、乗代さんならでは描写や比喩が、複雑を通り越してしまっているというか。
視点が主人公の女子高生から文章の作者である将来の自分と混在するところ、また、仲の良い伯母と姪という関係性(旅する練習では、叔父と姪)が軸になっているところなど、いくつか旅する練習との共通点もありました。
乗代さんは、このなんとも微妙かつ絶妙な距離感の親戚関係がお好きなよう。実体験に基づいているのかな、などと想像してみたり。
他の著作や文献からの引用が多いのも似ていました。
主人公は女子高生・阿佐美景子。控えめにいって、相当こじらせています。
この主人公が慕っているのが医院で働いている叔母。二人の、ときに哲学的、ときに通俗的な会話に長くページを使われており印象に残ります。(ただし意味のよく分からないところが多い)
この叔母との会話をはじめ、いやらしい体育教師とのやり取り、読書会、家族で行く焼肉屋、病院の待合室にいた老婆…… 読み終わってみると、あたかも主人公が同じ連作を読んだかのような。
それぞれのエピソードがつまらないわけではないのですが、ややぶつ切り感があるというか……
この作品は、2015年、乗代さんが29歳で群像新人賞に応募したもの(その前は大学の後半の頃に1回だけ応募)。それまで、ブログで数多くの文章を発表していたそうです。
ブログに掲載するということは、ただ自身で黙々と書いているより読者の反応は気にするほうだと思うのです。
それを踏まえると、なにか、一般の読者というより、新人賞の選者向けの作品を作りあげたのかな……そんな勘繰りさえしたくなります。
旅する練習の発表は、2021年1月。デビューしてからの年数による変化もあるでしょうが、自身の読解力のなさを棚に上げつつ、それくらい旅する練習とのギャップを感じてしまう読書でした……
乗代:どうしても小説家になるぞと投稿するような感じではなかったですね。ブログで書いているうちに、自分で書いたものが小説になったという感覚があって、やっと二回目。もともとブログに発表して、シリーズで続けていこうかなあと思っていた短篇を膨らませて書いたんです。
作家の読書道
ちなみに、インタビューでこのように語られています……
とにかくこの本を読んだ理由は、乗代さんのデビュー作という点のみならず、この主人公が登場する作品がいくつかあるということ。
内容はイマイチ理解できなくとも、主人公がどんな性格で、どんな言葉を発する傾向にあるかなんとなくつかんだことをヨシとするしかありません。
このデビュー作「十七八より」の背景について、作家の読書道のインタビューで詳しく答えられています。
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