2016年に第155回芥川賞を受賞した「コンビニ人間」の村田沙耶香さん。デビュー作である「授乳」を読みました。
主な登場人物は、女子中学生で受験生の〔私〕と、彼女の家庭教師。
少し気の弱い家庭教師の男性と女子中学生の、淡々とした授業だけの関係からスタートしますが、それが徐々に変化していきます。
最初は、先生の手首の傷口を見つけた〔私〕が手当したことによる触れ合い。
でもそれは単純な優しさではなく、「気が向いた時に親切を与える。そして、苛立ちのはけ口にしてもよい存在」だから。
〔私〕と先生の歪んだ感情が交錯しながら、その関係は進んでしまいます。
ある時は部屋に入ってきた蛾の羽を毟っておびえた先生の顔に押し付け、そしてある時は〔私〕が先生に対し乳房を口に含むことを命令します……
こう書くとちょっと変わったな官能小説みたいな展開ですが、主人公にも〔私〕にも、一見普通なんだけどどこか欠落したようなところがあり、ストーリーというよりそういった人物を通してみる世界が独特です。コンビニ人間の主人公のような人物が、デビュー作から村田作品の魅力の一つであったということがわかりました。
ただ、同時に感じるのはなんとも言えない気味の悪さ。
主人公の〔私〕を通して見る他人は、家庭教師の先生はもちろん、母や父、学校の友達でさえ、感情を持った人間ではなく、ただただ物体であるかのように表現されます。そして、どうしてそんな冷淡で歪んだ見方になってしまったのかの説明は一切ありません。
だから先に書いた先生とのエピソードも、あくまでも〔私〕による「授乳」であると表現されるのです。
コンビニ人間もそうですが、この文庫におさめられている2つの短編もしかり、どこか人間味の欠落したような人物像が村田さんのこだわりのようなものなのだと感じました。究極の客観性とも言える目を通して表現される独特の村田ワールド、是非味わってみてください。
第46回群像新人文学賞を受賞した表題作のほか、2つの短編がおさめられています。
「授乳」は文庫で約50ページの短編です。
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