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最高の任務/乗代雄介 家族と親戚と関東平野

読書感想
生き方の問題/乗代雄介 感想

旅する練習ファンになった乗代雄介さんの単行本「最高の任務」に収録されている「最高の任務」を読みました。ちょっと難しかったデビュー作「十七八より」に登場する主人公・阿佐美景子と叔母(ゆき江ちゃん)が登場するシリーズとなっています。第162回芥川賞の候補作です。

あらすじ、内容について

大学の卒業式を前にした私は、あるきっかけで、亡き叔母にもらって書き始めた、小学生の頃の日記帳をひもとく。日記を通して語られていく、叔母との記憶……。

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大学の卒業式など乗り気ではなかった景子だったけれど、母はしつこく出席することを推す。しかも、父、母、弟、家族みんなで卒業式にでかけると言う。

その裏には、卒業式のあとに実行される、景子だけが知らされていない、とある「任務」が。

景子を宥めすかしながら遂行されていくそれは、ちょっとドタバタ感もあって楽しそうだけど、卒業を待たずに死んでしまった叔母・ゆき江ちゃんとのことが時おり思い出されてしみじみもする。というより、この任務にはゆき江ちゃんも深く関わっている。

任務の過程である景子たちの小旅行、仲が良く尊敬していたゆき江ちゃんとの思い出、それらを綴った日記。乗代さんならではの、過去と現在を行き来するエピソードでもって物語は感動的なラストへ……

「最高の任務」の感想、所感 

これまで読んできた乗代作品に比べてもストーリー性が豊か、エンタメ性と言っていいのか分かりませんが、謎もあって構成も練られた作品となっていました。

叔母であるゆき江ちゃんとのエピソードを交えつつも、話の主軸である、卒業式のあといきなり出かける家族旅行の「いったい私をどこへ、何のために連れて行くの」という謎を、主人公の景子と共有しながら読み進めることができます。

こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、ゆき江ちゃんが亡くなってしまっている今作では、「十七八より」で難解だったゆき江ちゃんとのやりとりが無くなったことで、読者としては随分と読みやすくなっている気がしました。

それらのやりとりや会話を通じて景子とゆき江ちゃんの関係が築かれたんだ、ということは、あくまでも承知のうえですが。

連続で乗代さんの作品を読んでいるわけですが、乗代作品の世界は、家族と親戚と関東平野で成り立っているといっても過言ではありません。家族、親戚以外の主要人物といったら、「旅する練習」のみどりさんくらいではないでしょうか。

それが、ワンパターンであったり、飽きが来るのであれば問題なのでしょうが、そんなことはまったくなく、身近な関係性が題材になっていることで感情移入しやすいというメリットもあるように思います。

もちろんそれは個々人によるでしょうけれど、自分の場合はシンクロする部分が多く、読書体験がよりいっそう豊かなものになっている気がします。

例えば本作に登場する館林には住んでいたことがあり、残念ながら景子がゆき江ちゃんと訪れた茂林寺には行きませんでしたが(車で10分ほどのところに住んでいたにもかかわらず!)、北関東の風景や雰囲気はとてもイメージしやすく、読んでいて懐かしさも混じります。

また、大学に通う甥が地元から上京していて、ゆき江ちゃんのように気のきいたことは教えられないけれど、ときどきテニスを教えたり一緒にご飯を食べたりしています。(残念ながら一年の留年が決まっており、景子のように無事に卒業を願う)

群馬へ向かう伊勢崎線のなかで、ちょっと気持ち悪いおじさんに遭遇したときにとる手段など、景子の人物像がちょっと危うい感じがしなくもありませんが、それも含めて、これから景子がどんな人生を送っていくのか、また続編を待ちたいと思います。

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